2004年忘年特集〜夏

「相馬の野馬追い」

毎年夏の盛りに福島県相馬の野馬追い祭りが開催される。
私は以前から一度は野馬追いが見たいと思っていた。

父は30代の頃に一度行った事があるという。
「凄いぞー!あれは見るべきだ!凄いぞー!
ダーッと馬がガーッと・・・なんだもないぞー!」
なんだかよくわからんがスゴイということだけはわかった。
しかし、あまりの暑さに少しだけ見てビールを飲んでいたらしい。
そして、そこのテレビで中継を見ていたと言うから、なんだかなあ・・・

叔父さんも以前行ったと言う。
「どうでした?」
「もう、二度と行かなくていいっ!」
とにかく暑くて暑くて見物どころじゃなかったらしいのだ。

行った人に感想を聞いても「とにかく暑い!」こればっか・・・
「(野馬追いの感想も吹っ飛ぶほどの暑さってどんなんだ?
せっかく行った野馬追いより暑さだけが印象に残るなんて・・・)」

私は折りよくバスツアーを見つけた。
私が行くと言うと父も行くと言うので、ふたりで参加を決めた。
祭りは3日間に渡って催されるが、バスツアーは本祭りの7月24日限定である。
今年私は7月19日まで遠出をしていて、帰ってきて疲れからか高熱を発してしまった。
胃と腸の機能が完全ストップして38度の高熱・・・
楽しみにしていた野馬追いはあさって・・・
前日、なんとか熱が下がり始め、完全復帰ではないがなんとか行けそうだ。
いや、せっかくの機会を逃してはなんない!
這ってでも・・・



当日、バスの添乗員は25歳くらいの若い女でタカハシといった。
私はまだ胃が痛くて食事も取れなかった。
バスの座席が決まっているので、名前を言ってあいさつする。
ところが、このタカハシ「おはようございます」の一言もない。
こいつダメ添乗員かもしれない・・・
そして私のこの予想は的中してしまう・・・

途中数ヶ所の集合場所に寄って、その地のお客さんを乗せながら目的地に進むのだが、急にバスがUターン始めたのだ。
「ん?どうしたんだ?」
しばらく戻ったかと思ったら、またUターンして進みだすし・・・
「あれ?今のはなんだったの?」
添乗員タカハシからは何の説明もないし。
結局、次の集合場所のお客さんを30分も待たせて「スイマセン」の一言もなかったそうだ。
バスの迷走は、タカハシが忘れ物したために戻ったのだが、
それでは大変なロスになると機転を利かせた運転手さんが、
タカハシの忘れ物を会社に携帯から連絡して持ってこさせることにした、というものだった。
ホント、人騒がせな女だよ・・・(怒)
最初っから携帯で電話しとけば問題なかったのに!
てなわけで、現地にも遅れて到着・・・
父は絢爛豪華な騎馬武者行列が見たかったと言う。
以前は、これを見て感動したのだそうだ。

では、3日間にわたる野馬追いの行事を説明いたします・・・
(タカハシが忘れて会社の人に届けてもらったパンフレットによる)

「野馬追い祭り」は3日間に渡って相馬市、原町市、鹿島町、小高町を舞台に開催される。
1日目、宵祭り
出陣
出陣は相馬中村神社、相馬太田神社、相馬小高神社の三ヶ所で行われます。
それぞれの神社で参拝と祝杯が行われ、出陣準備が整うと大将が出陣を命じます。
軍者の振旗を合図に螺役が高らかに法螺貝を吹き、いざ出陣!!となります。

総大将お迎え
北郷(鹿島町)勢騎馬隊約100騎は、総大将を鹿島町の土樋で出迎え、
宇多郷勢と合流し、隊列を整え総大将をお迎えする北郷陣屋へと向う。
この儀式は古式に則ったもので、総大将よりの伝言は早馬により逐一知らされ北郷陣屋にはひときわ緊張感が漂います。
その後、総大将お迎えの儀式を終えた宇多郷、北郷勢の一隊は一路雲雀ヶ原祭場地のある原町市へ向かいます。

宵乗り競馬
午後2時、原町市の雲雀ヶ原(ひばりがはら)祭場地では、
馬場清めの式を行い螺役の陣螺を合図に白鉢巻に陣羽織、野袴姿の騎馬武者たちによる
古式馬具を着けての宵乗り競馬が1,000mで12回行われる。
(私たちは宵祭りは見てなくて、2日目の本祭りだけを見に行ったのです・・・)

2日目、本祭り
お行列
午前9時30分、原町市の北方、小川橋付近に集結した騎馬隊は、
陣螺陣太鼓が鳴り響き号砲の花火が炸裂すると、約3km先の雲雀ヶ原祭場地へと繰り出します。
まず、相馬太田神社に供奉する中ノ郷(原町市)勢を先頭に、
相馬小高神社に供奉する小高郷(小高町)標葉郷(浪江町、双葉町、大熊町)が続き、
しんがりは相馬中村神社に供奉する北郷(鹿島町)宇多郷(相馬市)勢が
雲雀ヶ原(ひばりがはら)のご本陣を目指して進軍します。
先祖伝来の甲冑に身を固めた500余騎の騎馬武者が居並ぶ、威風堂々にして豪華絢爛な
戦国絵巻は、まさに天下無比の圧巻であり、文化財的逸品が揃う「お行列」は動く文化財展として
好事家に野馬追いをもう一度見たいと言わせる所以です。
(父が見たかったのはこの「お行列」だったのでした・・・)

甲冑騎馬
正午、兜を脱ぎ白鉢巻を締めた若武者が、大坪流の手綱さばきのもと、
先祖伝来の旗指し物をなびかせ、人馬一体となり風を切り疾走する勇壮な甲冑競馬。
1周1,000m、12頭立てで10回行われる。

神旗争奪戦
午後1時、山頂の本陣から戦闘開始の陣螺が鳴り渡る。
満を持していた数百騎の騎馬武者たちが、夏草茂る雲雀ヶ原一面に広がる。
天中高く打ち上げられた花火が炸裂し、二本の御神旗がゆっくり舞い降りてくる・・・
数百騎の騎馬武者たちがこの旗を目指しどっと駆け出し、御神旗の下に群がり鞭を振りかざし
勇壮果敢に奪い合います。雲雀ヶ原祭場は戦場と化し祭りは最高潮に達する。

3日目
野馬懸け
小高町の相馬小高神社境内で行われる神事。
騎馬武者数十騎で裸馬を、境内に設けた竹矢来の中に追い込み、白鉢巻に白装束をつけた御小人と呼ばれる者たちが、
素手で荒駒を捕らえ神前に奉納する古式に沿った行事。
これで3日間に渡る野馬追い行事が終了する・・・



私が見学したのは2日目の「お行列」が雲雀ヶ原祭場に入ってくるところからでした。
私たちは歩いて10分のところでバスを降ろされて、雲雀ヶ原祭場に用意されている桟敷席に向かいました。
私たちは到着が遅れたため、既に「お行列」が山頂のご本陣を目指しており、下を横切ることができません。
それに、タカハシが桟敷席の場所を分かっていない!
私たちは「お行列」が途切れるまで足止めされることになった。

私は雲雀ヶ原祭場に入場してくる武者に圧倒された!

カッカッカッ・・・
ひとりの武者が走る。
「なんの誰がし、総勢150騎ただいま参上仕るー!」
と伝令が駆けてくる。
その後方には大将を初め総勢150騎の行列が控えてる、といった具合だ。
伝令を受けた本陣は「ごくろうであった!」と答える。
そして、到着を告げる螺と太鼓が到着、関で鳴らされる。
これのカッコいいこと!

法螺貝っていろんな音色がでるのねー。
音階も吹き分けられるのねー。
4人が円になって吹かれる法螺貝。
カッコいいー!
武者です!
私もああなりたいですぅー!

感動しました!
こんなに武者がカッコいいのでは、戦国の世が無くならないのも頷けます。
そりゃ、こんなにステキな武者がいたら、惚れますって!マジで!
これでは戦がなくならないわけだ・・・
ここは戦国、100%武士の世界・・・


法螺貝の音にtuzi感動!すご〜〜い!!

私たちはいったん山頂に登ってから横切り桟敷席に。
「2:30にお迎えに来ますので、こちらでお待ちになってて下さい」
そう言い残し、いったんタカハシはお役目を終えた。

父と私は持参したゴザを広げひとまず落ち着いた。
それにしても暑い!
私は持ってきた日傘を広げた。
日陰ができると全然違った!
小さな傘だったが、父にもかぶせてあげた。
いくぶん快適になった。
私は陽に当たると痒くなる敏感肌なので、タオルを頭からスッポリかぶりサングラス・・・
まだまだ「御行列」は続いていた。
「なんの誰がし、ただいま参上仕るー!」
「ごくろうであった!」
が何度も繰り返されていた。


大行列は本陣に向けて坂を登る・・・

タカハシがお昼のお弁当を持ってきた。
父と私は持ってきたお茶で弁当を食べながら見物していた。
私は、まだ胃が痛んでいたのでほとんど食べられなかった。
朝の集合時間が早かったので(家を5:30に出た)朝ごはんにと母がおにぎりを持たせてくれた。
その残っていたおにぎりを少し食べるのがやっとだった。
私は暑さには自信がある。ちょっとやそっとの暑さにはバテない自信がある。
しかし、今日の体調ではこの暑さは堪えた・・・

午後1時。そろそろ甲冑競馬が始まる。
時間的に暑さも最高潮に達してきた。風でもあれば少しは涼しく・・・
ところが無風だった。そよ・・とも風がない。
私は我慢して甲冑競馬を見ていた。
でも、3レースほど終わったところで、呼吸が・・・
い、い、息が・・く、く、苦しい・・
「とうちゃん、冷たいもの食べたい〜・・」
父は以前も来ている経験者である。
今朝も、氷を持っていこうとする私に「そんなのどこでも売ってるから置いていけ!」と言ったほどだ。
なのに、そんな売り子は来ないし、どこに露店があるんだよ〜
「その辺にあるだろうから行って来い・・」
そ、そんなあ・・・
もう、私、倒れそうなんです・・・
持ってきた貴重なペットボトルは灰皿にされてしまったし!(怒)
貴重なお茶はタバコを消すのに使われちゃうし!(怒)
このー!鬼オヤジ!
私が弱っていなければ、これしきの暑さ、なんでもないところなんですが。
今日ばかりはギブアップです・・・
さっきからカメラも暑さにやられて動きがおかしいし・・・
ついにシャッターも下りなくなっちゃったし!


甲冑競馬、旗がはためく様はカッコいい〜〜暑さでtuziの頭はくるくる〜〜

私はレースの途中で席を立ち、ふらふらとめまいをおぼえながらよろよろと歩きだした。
どこに行ったらいいのか分からなかったけど、とりあえず上に登ることに・・・
父の言うようなカキ氷など、どこを探しても見つからない。
やっとのことで、水道を見つけるも、長蛇の列!
仕方なく並んだ。
私が並んでいる間も、ひっきりなしに救急車が通る。
運ばれている人は老人ばかりではない。若い女性も多かった。
すぐ横には簡易トイレも設置されていたが、こっちに並んでいる人はほとんどいない。
この暑さじゃ、排泄される水分などありゃしない、といったところだろう。
15分も待ってようやく使えた水道に、今度は横入りのおばちゃんが群がる。
「並んでるんですよ」
と優しく言ってもきくもんじゃない。いやはや、浅ましさ全開だった。
タオルを濡らして頭からかぶる。
冷たくもなんともないほどの熱気だ。
濡らしたはずなのに、席に戻った時にはカラカラに乾いていた・・・
父は私が持ってきた日傘を占領し、ごきげんで観戦していた。
「こ、こ奴・・・」

クライマックスの神旗争奪戦が始まる。
暑さも頂点に達し、見学者もイライラが募っていた。
なかなか進行しないのに腹を立てて野次が飛ぶ。
「始めないなら帰るぞー!」
「やめろ、やめろー!」
実際、暑さにたまりかねて帰ってしまう人も多かった。
桟敷席も徐々に空き始めていた。
隣の旅行会社の添乗員はお客さんを心配して「暑いですが大丈夫ですか?」と
時々様子を見に来ていた。冷たい飲み物を差し入れたり・・・
それにひきかえ、うちのタカハシときたら!
一度も様子を見に来ない。まったく気の利かない女だ!(怒)
お客さんが熱中症で倒れていたらどーすんだっ!(怒)

ま、それはそれとして、神旗争奪戦も堪能して父と私の野馬追い観戦は幕を閉じた。


上空に青い旗が見えますか?あの旗を目指して騎馬が集まる
旗をとった武者は坂を一気に登り本陣へと向う



朝、バスを降りた場所まで帰りも歩いた。
祭りを終えた武者達がすぐそばに・・・。
カッコいいー!
私も‘武者’になりたーい!
惚れ惚れします〜!


戦い終えた武者

暑さ除けを万全にして、是非とも相馬野馬追いにおこしやす。
一見の価値ありです。
私も暑さのほとぼりが冷めた頃に、また見てみたいものと思っています。
・・・しばらくは、あの暑さ、思いだすのも嫌ですが。

昨年の「西馬音内の盆踊り」といい、今年の「相馬の野馬追い」といい、
日本の伝統行事には心を揺さぶる血を騒がす何かが潜んでいます。
私も日本人なんだなあ・・と感じる瞬間でもあります。
いや、日本人のというより、伝統の持つ力に感動を起こさせる力が潜んでいるのでしょう。
それは、何千年、何百年の伝統だけが身につけている重みのある力なのだと思います。
それを受け継いで伝えているということは素晴らしいことです!
そして、私もその伝統をこの目で見ることができて本当によかったと思います。
どうか、相馬のみなさん、これからも戦国時代から変わることない形で
「野馬追い神事」を伝えてください。



私たちの観光バスは相馬市の中村神社に寄ることになっていました。
参拝をするだけということですが、タイミングよく「御行列」が帰ってきたところです!
ラッキーです♪
父は思いがけず、神前に帰還の報告をしに帰ってきた武者行列を見ることができました。
私も、こんなに間近で武者行列を見ることができて、幸運だったと思います。


大将軍とともに御輿も帰還する中村神社勢一行


その後は海鮮物のお土産やに寄ったりして家に着いたのは深夜になっていました。
お土産に買ったアサリが大粒でバター焼きにしたら美味しかった!
父も私も勇壮な武者の姿が忘れられず、日に日に感動を呼び起こし、
家にあるちゃっちい法螺貝を鳴らして家族の爆笑を誘ったりしている。
ピーとかプーとかパホッ・・としか鳴らなくて、音階など全然無理!
「だって、あの法螺貝、人の頭より大きかったもの」
それでもめげずに「次行ったら、武者の姿で記念撮影するぞーっ!」と意気込む父。
「あー、私もー」と私。

ふたりとも次回に夢は膨らむが、暑いのさえなければ・・の話しだ。
次回は何年後の事だろう・・・?

ともあれ、我々親子は熱中症にも耐えて、救急車のお世話にならずに済んだ。
幸いとせねばなるまい。
翌日の新聞によれば、熱中症150人、うち救急車で搬送された人50人、だそうな。

どうせなら武者に担がれて、お馬で搬送されたいと思うtuziだった・・・


(文中写真はすべてtuzi撮影による)